方程式の解のことを根と呼ぶ人々がいる。
昔はそう習ったんだから、そのように呼ぶ人が残っていることはしかたのないことだ。

微分方程式の解のことを根と呼ぶ人はいない。何か不思議な語感があって、これは根とは呼ばないっぽい。
方程式の解のうちで根と呼ぶことのできるものは限られているらしい。

人によってその限界は異なっており

  • 方程式の解のことを根とは決して呼ばない。
  • 代数方程式の解のことは根と呼ぶ。
  • 線型な連立方程式の解も根と呼ぶ。
  • もっと一般の関数 f(x) で、方程式 f(x) = 0 の解も根と呼ぶ。
  • 関数が解になるような、関数方程式とか微分方程式の解も根と呼ぶ。

最近は一番上と二番目が多い気がする。

まあ、ここまでは昔の語法が残ってるだけだからいいとして、世の中には「二次方程式の重解」というのは間違っているから「二次方程式の重根」と呼べという主張がある。いわく

方程式 a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0=0 が与えられて、
a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0=a_n(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)\cdots(x-\alpha_n)
因数分解したする。
このとき、この方程式の根とは(\alpha_1, \alpha_2, \cdots, \alpha_n)をいう。
そして、同じ数が現れるときにその根を重根と呼ぶ。

例えば、x^2-2x+1=0の解はx=1で根はx=1,1

この定義は多少フォーマルさに欠けるが、確かに普通の代数方程式の根の定義である。そして、重解であるというのは、解の持っている性質ではなく、根の持っている性質だからおかしいというのである。
確かにそれは間違っていない。

しかし、この根の定義は一般の方程式には拡張できない。この方法で方程式の根が定義できるのは、それが代数方程式の場合に限るのである。
しかも、世の中には連立方程式の解をも根と呼ぶ人がいるわけで、そういう人にとっては解と根の定義は同じものだと誤解しているに違いない。この点で方程式の根を上のように「代数方程式の場合に限って」定義することは有害であると思う。

では「方程式の根」を定義せずして重解を定義できるのかというと、もっと自然で正道な方法がある。それは「多項式の根」を使う方法だ。
多項式の根」というのは、多項式を上と同様に因数分解したときに\alpha_1,\cdots,\alpha_nのことをいう。これが元来、根と呼ばれていたものであり、どんな多項式にも適用できる自然な概念である。「方程式の根」というのはこれの濫用であり、「方程式の」と冠するのは不自然な語法である。

代数方程式の解の重複度を多項式の根の重複度でもって定義できる。「方程式の」と冠する一般の言明の中での主役はもちろん「解」なわけで、「多項式の」なら主役は「根」だから、この定義はとても自然なものだと思う。

  • どんな方程式でも「解」は定義できる。
  • 「根」の定義できる方程式は「代数方程式」だけ。
  • 方程式を扱う分野の主役は「解」。
  • 「方程式の根」という呼び方は、一般化できないので廃止。
  • 一方で「多項式」の分野の主役は「根」。
  • それを方程式にまで濫用したのが混乱の原因。